危険な香りさえする銀座の裏路地に、仄かに浮かぶ怪しい灯り。江戸川乱歩の挿絵にあるような、昭和レトロなシルエットハットのアルセーヌ・ルパンがいる。
銀座の老舗バーのカウンターに、いつの日か座りたい。若い頃は入る勇気がなかった。数年の月日が流れ歳を重ねた。今は何の躊躇もなく扉を開ける。
一歩踏み入れる。目の前に現れた古びた“大人の階段”を地下へと向かう。過去の人生を振り返りながら、踏みしめるように。
何人の著名な文豪や画家が、ここを降りたのだろうか。想像するだけで感慨深い。
正面には太宰治の有名な“あの写真”がある。
創業は1928年。戦前という歴史の風格が、重みのある装飾から漂う。
店内は大盛況で満席。少し待つ。おじさんばかりではない。大半が若い人だったのは意外だった。“太宰の席”には外国人。英語の会話が飛び交う。
名物のモスコミュール。ちびちびやりながら、太宰を想う。
マスターの名人芸なのだろうか。カクテルは目分量。何の飾り気もない。これも歴史であろう。
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