子供の頃、大阪に向かう新幹線の乗り換えで名古屋駅のホームにいた時のこと。母親が立ち食い屋を指して「ここのきしめんが美味しいよ」と食べさせてくれた。お腹が空いていなかったのか、勧めた本人は食べず見守るだけ。
あまり馴染みがなく初めて食べるきしめん。本場の味というバックボーンもあってか、感動するほど美味しかった。満足するボクを見て微笑む母親は、最初からここで食べさせたかった様子だった。
その後、名古屋駅ホームのきしめんの味が忘れられないまま時が流れる。再食の機会は全く訪れない。東京から大阪や京都には行くけど、名古屋駅は通り過ぎるだけ。名古屋に縁がない。
30年ぶりかな。久しぶりの名古屋駅のホームに降りて立ち食いきしめん屋を見たら、このエピソードを突然思い出した。いま食事時ではないし、グルメの都で他を差し置いて立ち食いはないだろう。と思いつつもこのチャンスを逃したら当分ない。思わず立ち寄った。
ずいぶん前のことだから、味は美化されているかも。そんなどうでもいいような不安はありながら食す。
正直言って普通だった。オペレーションは変わり、麺は冷凍だったし、30年前とは掛け離れていても当然だ。
あの時の感動はなかったけど、懐かしさが込み上げてきた。母親の優しさが心に染みた。当時どんな心境だったのか聞いてみたくなった。
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